等割の尺八

故・山本邦山師にこの曲を教わったのは芸大学部3年生の時だから、かれこれ25年超も前のことになる。

当時、邦山先生の門人さんから『邦山先生のチの音は高めだけど素晴らしく抜けが良い!』などとよく耳にしたものです。

もちろんこれに異論はありませんし事実なのですが、邦山先生の演奏法には、実は楽器が大きく関わっていたのでした。

邦山先生の名作『壱越』の音源などを改めて聴くととてもよくわかることですが、邦山先生の演奏は『チ』がやや高めで抜けが良いだけではなく、『ロ』『ハ』は音程が低く、当然ご本人もお気づきでしたので、かなり強く吹いてピッチを持ち上げようとされています。

このため特に『乙ロ』『乙ハ』が大変テンションが掛かった張りのある良い音色がしていました。

また、『甲ロ』を軽く鳴らすには、瞬時に音程を持ち上げるのがなかなか厳しかったためか、『乙ヒ』を代用される機会が多かったのですが、これもロが低かったためでした。

製管をされる先生方は当然ご存知のことですが、これは邦山先生の楽器が古く、今と違って指孔が均等に開けられている、いわゆる『等割・とうわり』の尺八だったからに他なりません。

歌口の数センチ下には籐が巻かれていましたが、これは全体の音程が洋楽器と合わせるには高すぎたために、首の下で何ミリか足された痕跡です。

という事で、邦山先生に教わったことを多々思い出しながら、『ロ』『ハ』をぐっと押さえつけて強めに鳴らし、『チ』をやや高めに鳴らして少しばかりでも邦山先生の音色に近付けないものか、と吹いてみるのでした、、、。